「全国首長九条の会」は2019年11月17日に発足し、本総会で4年目に入ります。昨年の第3回総会以降、結成のつどいで閉会あいさつをされた元東京都保谷市長の都丸哲也さんが102歳で亡くなられたのをはじめ5名の会員が逝去されました。私たちはこれらの方がたのご遺志を継ぎ、9条を守り、平和国家日本を未来につなげていきます。
1年間のとりくみ
本会は第3回総会の活動方針に基づき、この1年間取り組みを進めてきました。まだコロナ感染が続く中でもあり、決して十分な活動内容だったとは言えませんが、事務局会議の定期的開催、会ニュースの定期発行はほぼ継続してきました。
2022年12月、政府は「安全保障関連3文書」改訂を閣議決定しました。この文書は憲法9条を形骸化し、日本を海外で戦争が出来る国にするものです。戦時体制に入るとき、国民の命や権利、尊厳を守ろうとする地方自治体の自治権さえ奪われることに思いを馳せたとき、私たちは政府の政策転換を到底看過し得ず、本年3月13日に「『安保関連3文書』の閣議決定に抗議し撤回を求める声明」を共同代表の連名で発表しました。
また、活動方針の柱に、「九条の会」との連携を掲げましたが、23年は「九条の会」の2つの全国的集会に参加しました。5月28日の全国交流会には292人が集い、当会からは11人が参加。岡庭元長野県阿智村村長、平尾滋賀県米原市長、鈴木元秋田県湯沢市長の3共同代表が本会の活動や行政区での平和の取り組みなどを発言し本会の存在を知らせることができました。集会後11人の参加者による懇談の場を設け交流もしています。10月5日の「九条の会大集会」でも、当会共同代表の松下東京都武蔵野市長が決意を述べるなど、全国で現職、元職の首長が9条擁護で奮闘している姿は大きな反響を呼び、今後私たちが果たすべき役割が垣間見えた場面でもありました。
これらの成果をふまえ、新年度においても情勢に応じた取り組みを発展させます。
憲法をめぐる情勢
(1)2022年2月、ロシアの侵略で始まったウクライナ戦争は2年目の冬を迎えていますが、いまだ戦争終結の目途も立っていません。また本年10月、パレスチナのイスラム組織ハマスがイスラエルに大規模攻撃をかけ1,400人余の死者を出す一方、イスラエルによる報復攻撃では、8,000人を超えるガザ市民が亡くなっています(10月末現在)。国連総会は10月27日「人道的休戦」を求める決議を121か国の賛成で採択しましたが、日本政府は棄権しました。
私たちは、ウクライナ戦争とイスラエル・ハマスによる大規模衝突の即時停戦を強く求めます。あわせて日本政府が憲法9条を持つ国として、「即時停戦」「戦争の終結」を求める外交を進めるよう強く要請するものです。
(2)「安保3文書」は、22年5月の日米共同声明で「台湾有事なら軍事関与」を明言したバイデン大統領に応え、「日本の防衛力を抜本的に強化し、防衛費の相当な増額を確保する決意」を示した岸田首相の極めて危険な対米公約の実行です。
この「安保3文書」は、3月の当会声明でも触れたように、アメリカの世界戦略に沿って、九州から南西諸島に至るミサイル網の配備など、台湾有事を前提に自衛隊の軍備増強と日米共同軍事行動の一体化を図ろうとしています。しかも、敵地攻撃能力の保有などは、憲法9条で「紛争を解決する手段として」の戦争を否定した日本が、最初にミサイル等の引き金を引き、相手国民を殺りくすることになります。それは当然報復攻撃を招き、150万の国民が住む南西諸島が焦土と化し、本土の日米軍事基地はもちろん、全国民をも戦火にさらしかねません。
さらに、「安保3文書」では5年間で計43兆円という軍事費の大幅増が明示され、これによって軍事費はGDP比2%の水準となり、日本は米国、中国に次ぐ世界3位の規模となります。政府が従来から示してきた「保持する防衛力も自衛のための必要最小限のものに限る」という「専守防衛」さえ投げ捨て、9条に真っ向から反するものです。
いま物価の高騰、異常な円安、低賃金のもとで国民は憲法25条の生存権さえ脅かされています。軍拡財源は、大増税であれ国債の大増発であれ、また生活予算の削減にせよ、いずれにしても国民負担の増大によって生み出す考えであり、住民の命と暮らしを守るために尽力してきた首長及びその経験者として到底許容することはできません。
すでに宮古島、奄美大島、石垣島に自衛隊ミサイル部隊が駐屯し、来年には沖縄本島勝連にも配備されます。玉城デニー沖縄県知事は、9月国連人権委員会で日本の国土面積の0.6%に過ぎない沖縄に、在日米軍基地の7割が集中する実態を挙げ、これ以上の基地負担は耐え難いと訴えました。県民投票で新基地建設反対の民意は示されたにもかかわらず、最高裁決定を受けて代執行の構えを見せる国の姿勢は、地方自治の本旨である団体自治・住民自治を損なうものです。
(3)大軍拡や敵地攻撃能力の保有を正当化するため改憲策動が強まっています
岸田首相は10月23日の所信表明で改憲は「先送りできない課題」だとして、憲法審査会での「条文案の具体化」を期待すると述べ、来年9月の総裁任期までの改憲に固執しました。
衆議院憲法審査会は、22年の通常国会以来、毎週開催され、憲法56条(定足数1/3以上)の「出席」に「オンライン出席を含む」との憲法解釈を多数で採決し、23年通常国会では、緊急事態での議員任期延長に関し、維新・国民・有志の会の3会派が統一した条文案を発表するに至っています。さらに自民党から自衛隊を明記する9条改憲の議論も進めたい意向が示され、維新の会も支持。国民民主党からは、戦力不保持を定めた9条2項の削除検討が主張されるなど、9条改憲への動きも強まっています。
活動方針
地方自治体の長、あるいはその経験者によって構成されている「全国首長九条の会」は、思想信条、政治的立場は異なっても、地方自治、住民の安全、人間としての尊厳を守るためには、戦争のない平和な日本と世界が不可欠だと考え、憲法9条擁護の一点で手を携え3年間運動を続けてきました。
安保3文書の具体化が進み、憲法審査会では改憲への動きが強まるもとで、安保3文書の危険性を警鐘乱打し、憲法審査会での改憲案づくりをストップさせるため、新年度活動方針を以下のとおり掲げます。
- 「九条の会」との連携・共同を強めます。全国各地の「九条の会」など草の根レベルの運動にも参加し、交流・連携を図ります。
- 憲法9条に関わる新たな情勢の変化や運動の発展に応じ、アピール表明など「全国首長九条の会」としての見解を発信します。
- 安保3文書具体化の最前線である沖縄県の会員や賛同者との懇談・交流を進め、連帯するとともに、沖縄県内での会員の拡大をめざします。
- 市民と野党の共同・共闘を進め、地方自治体から改憲発議に反対の声をあげる活動を進めます。
- 核兵器禁止条約に参加する政府の実現をめざします
- 現職はもちろん退任された首長にも、あらためて入会を働きかけるなど、組織の強化・拡大をめざします。
- ブロック単位、都道府県単位での「首長九条の会」の組織化に努めます。
- ニュースの定期発行を継続し、紙面の充実に努めます。また、本会の公式ホームページやフェイスブックなどSNSを活用し、発信力を高めます。
- 安定的な財政を確立させるために、未納会員への納入働きかけ、賛同団体の拡大に努めます。
- 事務局体制の強化を図ります。
役員 (2023年11月19日改定)
●本会を代表する共同代表
川井貞一 (東北6県共同代表・元宮城県白石市長)
鈴木俊夫 (元秋田県湯沢市長)
松下玲子 (東京都武蔵野市長)
岡庭一雄 (元長野県阿智村長)
平尾道雄 (滋賀県米原市長)
井原勝介 (元山口県岩国市長)
田中 全 (元高知県四万十市長)
稲嶺 進 (元沖縄県名護市長)
●本会の実務を行う事務局長
上原公子 (元東京都国立市長)
●事務局長を補佐する事務局次長
矢野 裕 (元東京都狛江市長)
藤澤直広 (前滋賀県日野町長)
●会の経理を監査する監事
吉田万三 (元東京都足立区長)