「地方自治法の一部を改正する法律案」に強く反対し、その廃案を求める声明

 2019年11月に結成した「全国首長九条の会」は、日本国憲法9条の擁護とともに、戦争への道は常に地方自治破壊の道につながってきたとの認識のもと、憲法92条の地方自治を損なうあらゆる動きへの対峙を活動方針に掲げてきた。その立場から、今国会に提出された「地方自治法の一部を改正する法律案」(以下、地自法改定案)は、地方自治の本旨を構成する団体自治を脅かし、国による地方自治体への不当な介入が生じるのではないか、私たちは大きな危惧を抱いている。

 2000年の地方自治法改正では、国と地方自治体の関係を「上下・主従」の関係から「対等・協力」に転換するとして、従来の機関委任事務を廃止し、地方自治体の事務を法定受託事務と自治事務に分けた。その中で国の地方自治体への指示権は個別法に規定された法定受託事務に限られたが、地自法改定案では自治事務にも国の指示権行使を可能とするもので、分権から集権への逆流となっている。

 地自法改定案では、「大規模な災害、感染症のまん延その他」の場合、「閣議の決定を経て…、普通地方公共団体に対し…、必要な指示をすることができる。」とあるが、国会審議ではコロナや大災害において現行個別法が想定しない事態があったのか具体例は示せず、「その他」はどのようなケースかもまったく答えられなかった。さらには「安全に重大な影響を及ぼす事態が発生する…おそれがある場合」との表現では、指示の範囲が際限なく広がりかねない。実際、5月23日の衆議院総務委員会で総務省自治行政局長は、集団的自衛権の発動要件である存立危機事態を定めた「事態対処法」も「除外するものではない」と言明した。

 「国の指示権」を認める国民保護法では、対象範囲は「避難・誘導・救援と港湾・空港の利用」と明確に限定したうえ、対象自治体との相互調整や意見申し出の手続きを求めている。2012年の自民党改憲草案でも緊急事態における「国の指示権」行使には、「事前又は事後に国会承認」を要すると明記した。しかし地自法改定案は一片の閣議決定だけで「おそれ」の段階から国会の承認なしで指示出来るとし、従来政府が必要としてきた歯止めをことごとく外している。国が自治体へ指示するには、改憲手続き抜きにはなし得ないからこそ改憲草案に加えたにも関わらず、地自法という一般法の改定のみで改憲意図を達しようとするのは、自民党改憲草案の先取りであり、許されない行為である。

 また「地域住民の生活サービス提供に資する活動を行う団体を市町村長が指定することができる」との条文は、自由な市民活動に自治体が介入するだけでなく、これら団体を有事の際の下部組織化にねらいがあるとの懸念も、一連の流れに鑑み否めるものではない。

 以上述べたとおり、「地方自治法の一部を改正する法律案」は、地方自治を根底から壊すだけでなく、立憲国家、法治国家すら否定しつつ憲法9条をさらに形骸化するものである。よって私たちは本法案に反対しその廃案を強く求める。

2024年6月3日

全国首長九条の会 共同代表

川井貞一(東北6県共同代表・元宮城県白石市長)
鈴木俊夫(元秋田県湯沢市長)
松下玲子(前東京都武蔵野市長)
岡庭一雄(元長野県阿智村長)
平尾道雄(滋賀県米原市長)
井原勝介(元山口県岩国市長)
田中 全(元高知県四万十市長)
稲嶺 進(元沖縄県名護市長)
事務局長 上原公子(元東京都国立市長)